kiss
「ヴォルフ、悪かったって」
ユーリはすっかり弱りきった様子で、ベッドに潜り込んでしまったヴォルフに言う。
しかし返事はない。
頭までシーツをかぶったまま動く様子もなかった。
ユーリは困った表情で溜め息をつき、それから広いベッドのはしに腰を落ち着けた。
ベッドのふくらみをゆっくりと目線でなぞり、手を出しては引っ込める。
沈黙がとても居心地悪く感じられたのは、多少なりともユーリに罪悪感があったからだろう。
別にユーリが悪いわけではないのだが。
「もう許してよ、何でもするからさ…」
ヴォルフは頭までかぶったシーツの中で、力のないユーリの声を聞いていた。
顔を見なくても、ユーリがどんな表情をしているのか想像がつく。
でも、ヴォルフにだってユーリに罪がない事くらい分かってはいるのだ。
ユーリが悪いのではなく、ただ自分が嫉妬しているだけだと言う事も。
でもやっぱり嫌なのだ。
ユーリガ自分以外の誰かに触られたり抱きつかれたりするのは。
ましてやそれが女で、ユーリを誘っているのならなおさら。
あの不届きな女はどこの誰だったのだろうか。
今日二人で街に出た時寄ってきてユーリを誘惑したあの女だ。
ユーリが見目良いから寄ってきて誘ったのだろう。
だがさり気なさを装ってユーリに触っていたのがとても嫌だった。
ユーリがそんな誘いに乗るはずがない事は知っている。
分かってはいるけれども嫌で仕方がなかった。
その女は、ユーリが好きそうなタイプだったし、ユーリは優しいから冷たく断ったりはしない。
それがもどかしかった。
あんまり腹がたったので、僕がユーリの腕を掴んで、
『これは僕の婚約者だ』
と叫んでそのまま帰ってきてしまった。
ユーリは僕のだから触るな、と叫びたい。
「ヴォルフ…」
ユーリの声が聞こえた後、ふいにベッドがきしんだ。
つい油断をしていて、かぶっていたシーツを剥ぎ取られてしまう。
そしてへなちょこ似合わない素早い動作で上に乗ってきたのを避けるのを忘れてしまった。
「どけ、何をす…」
はらいのけようと上げた声を喉の奥に飲み込んだ。
ユーリにキスされてしまったから。
ユーリの、以外にも柔らかい唇が優しく覆いかぶさってきたら何も言えなくなってしまった。
あんなに怒っていたのに、あんなにも腹が立っていたはずなのにそんな感情が全部胸の奥でとろけて消えていってしまった気がした。
その代わりに、ユーリが好きなんだ、とだけ感じた。
顔を少し離してユーリが微笑む。
「まだ、怒ってる?」
ユーリの手が、僕の髪を優しく撫でている。
僕は悔しいことに、ユーリを許してしまった。
こんなことじゃだまされないのぞ、と思うのに、怒れなくなってしまった。
きっとそれは、僕がユーリを好きだからだと思った。
「ヴォルフー?」
ユーリが僕の名を呼ぶ。
僕は、さっきの返事の変わりにユーリに口付けた。
好きだよ、と心のなかで呟きながら。
プー可愛いvV(壊)