どうか目を覚まさないで



革張りのソファで仕事中、居眠りをする副長。それは真面目なこの人にしてはとんでもない珍事。その人に今、俺は無体なコトを仕掛けようとしている。

そうほんの出来心。でもこんな時でもないと、一生そんなコトは叶わないんだから。

俺は机に乗り上げるようにして顔を寄せる。緩んだスカーフからのぞく、白い首元が妙に目をひいた。細い鼻梁、薄く開いた赤い唇。目を覚まさないコトを祈りながら、そっと自分の唇を重ねた。

ほんの一瞬触れただけなのに、生々しい感触が残っている。軽い弾力、その温かさ、柔らかな吐息。これは、多分一生、忘れられそうに無い。 どうせアンタの心はよそにあるのだから、思い出くらいはもらったっていいでしょう?

目を覚まさない副長に見とれながらも、慎重に身を引いていく。不意に、何の加減か机がきしんだ音をたてた。
(ヤバっ)
嫌な汗が出てきたのを全身で感じる。ドキリと心臓が跳ね上がった。嫌な予感と共に顔を上げると、そこには底意地の悪い笑顔をした副長がいた。一瞬、弁解も言い訳も上手い逃げ道も何も言葉に出来ず俺は固まっていた。何をしていたのか?言いたくもない。全くの条件反射で、副長の手が動いた時殴られると思った。逃げようとした俺と、その胸倉をつかんだ副長。副長のほうが動作は素早かった。
「あのっスイマセ…」
(えっ?)
間近に副長の顔があった。見上げる瞳と目が合った。重なった唇が熱かった。ただ俺は呆然としていた。








山土のつもりだったんスけどね。なんか逆っぽいわこりゃ