胸が締め付けられるようにせつない夜がある。それはたいていにおいて黒い想い人のせい。
無愛想でぶっきらぼうな、それでいて優しくて照れ屋な、オレの横で寝こける男。
きっとオレが寝返り一つうとうとするだけで目を覚ます。
起こしてしまうのはしのびなくて、そっとオレは息をつめる。
身動きもしたくなくって、さっきからもう見飽きた天井とにらめっこを再開する。
そうしてオレは隣に人がいる事を感じている。
耳元で響く微かな息遣い、空気越しにゆれる優しい体温。
何故だろう、こんな時オレは泣いてしまいたくなる。泣かないけど
「…まだ起きてたのか」
低いおさえ気味の声が耳たぶをかすめた。
「あれー起きたの黒リン」
オレは首だけを横向けて黒サマの姿を視界におさめる。暗くてよく見えない
「目が覚めたんだよ」
おきぬけの黒サマの声は、いつもからは想像がつかないほどに穏やかだ。
オレは黒サマの腕の中にもぐりこんだ。入りやすいようにと場所をあけてくれてる。
すりよると、大きな手が頭をなでた。
「初めてのベットだとね、なかなか眠れないんだー」
ほんの少しくぐもった声に黒様がどんな顔をしたのかは見えない。
黒様は余計なことは言わない。今もそう、ただ漠然とした優しさでつつんでくれる。
一番欲しいものを、さりげなくあたえてくれる。
だからますます、好きになってしまうんだ。
ずっといつまでも、こうしていられるわけがないのに。
そう、どうせ一番大切な人にはなり得ない。
良くて二番目、それも期間限定。
この旅が終われば二度と会うこともなく、ただ通りすがりの人として忘れていく。
所詮は恋愛ごっこ、暗黙の了解の上に築いた関係だったのにね。
何でだろう、今はこんなにもその時がこないことを欲してる。
ずっとこのままでいられたらいいなんて思うんだ。
それでもどうにもならないことくらい分かっているのに。
だからね、そう。
全部黒サマのせいなんだよ