眠り薬



ユーリと僕とコンラッドの3人旅。 でも僕は、船酔いで、昼間から部屋で寝ていた。 うつらうつらと浅い睡眠を繰り返し、何となく時間は過ぎていく。 ユーリとコンラッドは朝から部屋の外を渡り歩いているようで、戻ってくる様子はない。 まだ当分は戻ってこないだろう。 僕に気を使っているようで、そうでないようで。 まあどちらでもいいことだ。 広い部屋の広いベッドで僕一人。 静かでいいのだが、中々深い眠りにつくことが出来なかった。 まだ気分は良くなくて、もう少し眠りたいのに、頭が冴えてきてしまう。 そんな時、不意に部屋の鍵を開ける音が聞こえて身構えると、コンラッドだった。 僕が起きているのを見て近寄ってくる。 ベッドの傍に椅子を引き寄せて、勝手に横に座った。

「平気か?」

僕は、もう一度ベッドの中に潜り込む。

「見ての通り…うっ…」

吐き気がこみ上げてきて、口を手で押さえる。

「吐くか?」

コンラッドがゴミ箱を引き寄せたのを見て、僕は首を横に振った。 何も食べていないので、もう吐くものなど残っていない。

「…だからついてくるなと言ったのに」

何とか落ち着いた僕を見て言った。 苦笑するような、でもどこか優しげな表情が何だかとても腹立たしかった。

「…うるさい…」

小さく呟くと、また笑われた。 唇を尖らせてそっぽを向くと、コンラッドの大きな手が僕の頭を撫でた。 子ども扱いされるようで悔しくて、照れくさかったが、気分が良かったので払いのけようという気はおきない。 何だか、まだ僕が小さかった頃の事を思い出した。 今みたいに、優しく頭を撫でてもらった事を。 でも、それはもう昔の話だ。

「…ユーリは?」

「ラウンジでお茶してるよ。平気だ」

表情一つ変えずにコンラッドは答える。 コンラッドは、気付いてしまっただろうか。 僕が、ユーリに嫉妬した事に。

「…行かなくて…いいのか?」

聞かないほうがいいと分かってはいるけれど、あえて尋ねる。 別に、ユーリと僕を選ばせたいわけじゃない。 コンラッドは、すぐにユーリのところへ戻る。 別にいいんだ、そんな事。
僕が、コンラッドに背を向けようとした時、コンラッドが顔を近づけてきた。

「ヴォルフが、心配だったから」

頭を撫でていた手が、フッと前髪を払いのけて。
額に唇を落とした。

「おやすみ、ヴォルフ」

コンラッドは、まだ立ち去ろうとはしなかった。

「ヴォルフが眠るまではここにいるから」

優しい囁きが、耳に届いた。
僕が眠らなければコンラッドがずっとここにいるのなら、眠らないでおこうかとも思ったけれど。 困らせたくはなかったし。 不思議なことに、眠れそうになってきたから。 眠ることにした。

あぁ、前にもこんな事があった。 僕が、もっと子供の頃。 風邪を引いて寝込んだとき。 コンラッドがずっと傍にいてくれてた。 その時も眠れたんだっけ。



僕は幸せな気持ちに包まれて眠りについた。






最終兵器でヴォルフの船酔いが回復したのはこういうわけだと思うんですよvV