小さく控えめなノックの音。
「兄上…」
囁くように呼ぶ声。
それらはどことなく微笑ましかった。
「どうした…?」
優しく、ドアの向こうへ呼びかけてやると、おそるおそる末弟が顔を覗かせる。
扉の前で、今にも泣き出しそうな風情に立ち尽くす弟を見かね、グウェンが再び声をかけた。
「…何か、あったのか?」
グウェンはソファに座ったまま、読んでいた本を置いてヴォルフをのぞき見る。
「…いえ、何も…」
ヴォルフはゆっくりと移動し尊敬する兄君の横に座った。
断りも何もなく当然のようにヴォルフがそこに座るのは、決して拒まれないと知っているから。甘えるように体をグウェンにもたせかけ、ヴォルフは静かに目をつぶった。
こころなしかグウェンの表情は緩み、そっと小さな金髪の頭を自分へと抱き寄せる。
グウェンの胸の中、小さななみだがひとしずく零れ落ちた。
兄上のところに甘えにくるヴォルフ。
何で泣いてたかってそりゃ…母上にでも怒られたんじゃないですか?(テキトー