風邪でダウンした俺と、枕元で額のタオルをかえてくれる近藤さん。それに

「馬鹿のくせになに風邪なんてひいてんだよ」

と土方さん。言い返す元気は無い。近藤さんが、たしなめるような視線を土方さんに向けて、土方さんは黙って横に座った。

「じゃあ俺、仕事行ってくるな」

近藤さんが俺の頭をぽんとたたいて軽快に立ち上がる。足音がして、扉が開いて閉まる音がして、それからふいに静かになった。目を開けると天井、目をつむると黒と何か、ちかちかするものが光ってる。体がここにあってないような、宙に浮いてる不思議な感じで、気持ち悪いけれど面白かった。意識が揺れてふわふわする。ふとあんまりにも静かだったから誰もいないような気がしてきた。

「ひ、じかたさん…?」

「…どうした?」

すぐに頭の上から声がした。

「どっかいったとおもった」

「行かねえよ」

身じろいで声がしたほうを見ようとすると、そこにあることをすっかり忘れていた額のタオルが落ちる。

「何やってんだよ」

すぐに土方さんがそれを拾い上げて俺のおでこに戻した。めくれた布団をぎこちない手つきで引き上げて、ついでに頬をかすめてく。衣擦れの音がして、俺は目を開けた。布団越しの畳が柔らかく音を立て、遠ざかるような足音がした。

「どこ、行くの」

「仕事」

「行かないで」

「は?」

「ここにいて」

「あー…お前が可愛い事言うの初めてだな」

唇をとがらせて黙りこんだ俺に根負けしたのか土方さんは言った。

「…書類だけ取ってくる。」

なだめるように頭を撫でて出て行った。急に部屋が寒くなったような気がした。ここにいてくれたらどうにかなるわけでは無いのだけれど。隣に誰かいるかいないかではこんなにも何かが違う。飛んだままの意識の上で少し大切なコトを思っていた。