Good by




何の予感もなくそれは唐突にやってくる。それは変化。いつかくるとはお互いに分かっていたくせに、大丈夫だと無意味に根拠もなく思っていただけ。笑っちゃうほどにマヌケだ


よく晴れた秋の日、土方は縁側で煙草をふかしていた。独りでいるという気の緩みもあるのだろうが、傍で見ても分かるほどに表情は暗い。秋は意味もなく沈みがちな季節であるがそれだけではなかった。しばらくすると、総悟がやってきてめずらしく黙ったまま隣に腰掛けた。土方は意図的にそちらを見ようとしないでいる。ぎこちなく互いに遠慮しあい、内心を図りあうような無言の状態が続いた。ほんの少しの物音が致命的に何かを破壊してしまうかのように、張り詰めた沈黙を守った。やがて先にそれを壊したのは総悟のほうだった。何かを強く決意したかのように小さく息を吸い込み、唇を開く。ほんの少しためらってから、耐えるように目をつむり、やっと声を発した。

「別れよう」

乾いた空気に、小さな意志と悲しい決意のこもった言葉が吸い込まれる。

「…何で、そんな事言うんだ」

力なくうなだれたまま土方がつぶやいた。視線は中空を見つめていて、その瞳は空の青さだけが映っている。

「アンタを好きだから」

総悟は無表情を貫いている。ただ何かをこらえるように唇が小さく震えていて、それはふとすれば壊れてしまう繊細なガラスを思い起こさせた。総悟は、土方のほうを見ようとはしない。土方も総悟を見ようとはしなかった。庭の池のある一転を見つめたまま言った。

「じゃあ何で」

総悟は笑った。しかし上手くいかなかったようで、今にも泣き出しそうな笑顔だった。本当は、叫びだしたかったのだ。何で分かってくれないのかと。アンタのために別れるんだ、と。でもそうはしなかった。

「オレしってるんだ、土方さんにお偉いさんからの見合い話が来てるって。断れない筋からの」

土方は視線を下に落とした。

「別にそんなわけじゃ」

「でもアンタは断らない」

念押しするように総悟は繰り返した。土方は何も言わない。それは正しかったからだ。断れば、上との仲は険悪になり隊もやりづらくなることは明白だった。風が吹いて、煙草の灰がポロポロと指の間から零れ落ちた。それとほぼ同時に総悟が立ち上がる。視線を避けるように背を向けて、小さく震えていた。

「バイバイ」

やがて走り去る小さな背中を土方は見つめていた。



身を引くのも愛の形




05'1030


もう何もいうまい