溺れる
誰かを本気で好きになるなんてないと思ってた。相手のためなら全てを捨てられるなんて感情を理解することなど想像もしていなかった。何より自分が大切で、それ以外の奴なんてどうでも良いとしか思ってなかったのに、何でこんな
「土方さん、まぁだ仕事終わんないんですかィ」
少々すねたような口調で背中へとしなだれかかってくる心地よい体温。コツンと額が肩に乗せられた。そんな仕草の一つ一つが土方を夢中にさせることに総悟は気付いていないのか
「お前がじゃまするからだろ」
わざとそっけない口調で土方が返す。その裏にある感情にすら総悟は気付いていないようだった。総悟は甘えるように両手を、首に回して机をのぞきこむ。
「だって、もう夜ですぜ」
「もう少しで終わる」
じゃまだからひっつくな、ともどっかいってろとも土方は言わなかった。総悟はほんの少し調子に乗った。鼻先に触れる黒い髪をのけ、首筋に唇をつけると強く吸い上げる。チリリと走った微かな痛みに土方は眉根を寄せた。
「…オイ」
不機嫌そうな土方とは対照的に、総悟は嬉しくてたまらないようだった。
「跡、ついた。赤くなってる」
いつになくはずんだ様子で自分のつけた跡を覗き込む総悟。それを見て土方は更に憮然とする。
「…お前、先に風呂入って来い」
低い声音で怒ったように押し出す。総悟は立ち上がり素直にハーイと部屋を出て行った。
障子が閉められると、土方は喉の奥でくつくつと笑った。吸われて赤くなった左首筋をそっとおさえ、たまらなく楽しそうな顔をする。口角がさがっているのをもはや隠そうともしていなかった。
そして同時に、それを不快に感じていない自分に怖さを覚える。総悟に惹かれているという紛れもない真実を鼻先に突きつけられ、やっと認めた。理性を圧迫する底の見えない感情に溺れている事に。
でもどうしようもない、手の打ちようもない。惹かれるままに堕ちていく
土方はもう一度確かめるように首筋を撫でた。
05'1009
ムズイ。
三島由紀夫の小説など読んでるとこんな下手な自分がいたたまれなくなる