冬の朝早く、土をザクザクと掘る音で目を覚ました。寒くて、もう一度布団の中にもぐりこむがもしかして総悟が何かやらかしたこもと思うと眠れなくてのそのそと這い出る。はきだしたため息が白い。寝巻きの上に一枚羽織ると、もう一度ためいきをついて庭へ出た。まだ屯所の誰も起きだしてこなくてとても静かだった。だから音の出所が屯所一大きな桜の木の下だということはすぐに分かった。よく見ると、植木のすき間から見慣れた茶色の頭がのぞいていた。俺は足音を忍ばせ、そっと総悟の背後に回りこむ。

「何やってんだ、お前」

しゃがみこんだ総悟の肩越しに地面を覗きこむと大きな穴が開けられ、そばにはスコップも落ちていてつい眉をひそめる。総悟は、めずらしく俺の気配に気付かなかったらしくビクッと肩を震わせ振り返って見上げた。

「あぁ土方さん」

いつもながら無表情なのだが今日はなんだか元気がないように見えてまじまじと見つめてしまった。それから桜の根元に掘られた穴に目を向ける。

「穴掘ってどうする気だ…?」

横にしゃがみこみ目線を合わせると総悟が持っているものに気が付いた。

「猫が…死んだから…」

それは、総悟が俺に隠れてずっと毎朝えさをやっていた子猫だった。一応気付かないフリをしてはいたが、総悟がとても可愛がっていた事を俺は知っている。

「野良猫みたいなモンだけど…」

総悟は俺の前で猫を穴の中に横たえると、しゃがんだまま目をつぶった。そういやこいつも猫みたいなところがある。気まぐれで警戒心が強くて、時々甘えにくる。そんな事を思いながら総悟の横顔を盗み見ると、唇を引き結んでまつげを震わす今にも泣き出しそうな顔をしていた。俺はこんな時に不謹慎ながらもそれを綺麗だと思った。めずらしく伏し目がちな大きな目はうるみ、頬は寒さで朱く染まる。その一瞬は時が止まったかのように美しく、そしてまた消え入りそうに弱々しかった。そのうちたえきれなくなり、一滴の透明な涙が零れ落ちた。その零れた涙すら綺麗で俺は思わず見とれた。涙は後から後からこぼれおち、でもそれを拭おうとはしなかった。ゆっくり頬を伝い首筋へと流れる液体は朝日を受けて控えめに輝いた。何故かそれがたまらなく痛々しくて、俺は思わず冷えた小さな頭を引き寄せた。背中に手を回すと肩が小さく震えているのが分かった。

「お前に可愛がられて猫を幸せだっただろ」

返事はなかったが、肩が一度大きく揺れた。俺は背中を優しくあやすように撫でてやる。

「猫の分、この桜が咲いてくれるさ、な?」

ポンッと軽く頭をたたき、顔を見るともう泣き止んでいた。泣き笑いのような表情を浮かべて俺を見上げ、それからスコップを手に取る。俺は総悟が穴に土をかぶせるのをそっと見守っていた。





すごい短時間で書きました(爆
この後、
「アンタ、バカでさァ」
「るせェ泣き虫」
ってひと悶着ありそう(笑